とは言え学生寮とは名ばかりだ。
一応元大家さんの部屋に寮母さんみたいな人はいるけど、その人のやっていることは寮母と言うより完全に大家さんだ。
部屋の案内やトラブルには対応するけれど、朝晩の食事を作るわけでもないし、外出する生徒を一々把握することもない。
ハッキリ言って、学校に通うためにアパートに一人暮らししているって状況と変わりない。
まあ、自由がきくからって理由であたしたちの他にも何人か入ってるみたいだけれど。
そんな話をしながら立ち上がって席を離れようとしたとき。
ガシッ
突然誰かに右手首を掴まれた。
「え?」
硬くて力強いそれはしのぶのわけがなくて……。
掴まれた手の先を見ると、それはいつの間にか起きていた久保くんに行きついた。
え? 何? どうしてあたし手首掴まれてるの⁉
混乱して言葉も出せないあたしの手首を掴んだまま。久保くんは椅子から立ち上がった。
そして大きくあくびをしてからどうでもよさそうに話し始める。
「まだ帰んな。お前を連れて来いって言われてんだよ」
「え?」
どこに?
そして誰に言われたの?
そんな疑問をぶつける暇も与えず、久保くんは歩き出してしまった。
「え? ちょっ、ええぇ?」
仕方なくあたしも足を進める。
でも本当は行きたくないわけで……助けを求めてしのぶを見た。



