まだ一年だった俺達は下っ端連中を完全に把握することが出来なくて、夏休みで目が行き届かなかったこともあり手の(ほどこ)しようがないほど関係は悪化していた。

 そのせいで、あの頃はまだ気軽に話したり出来た司狼との関係もギスギスしたものになっていったな。


 このままでは関係のない人間まで巻き込みかねないというところにまでなって、俺達は一度ぶつかることを選んだ。

 いわゆる、抗争を起こしてしまおう、と。


 千隼にも手伝ってもらい、場所を見繕って、ケンカをするために集まった。

 そうして発散させることで問題を起こさせない様にするつもりだった。


 なのに、誰かが刃物を取り出しやがった……。

 どちらの勢力かなんて分からない。

 一人が獲物を出したことで、どちらの勢力からも刃物を出してくる奴が何人かあらわれたからだ。


 あのまま誰か一人でも重傷者が出れば、事は俺達の思惑を外れて重大事件扱いになっていただろう。

 俺と司狼の関係にも完全にヒビが入って、修復できなくなるところだった。


 そうならなかったのは彼女の存在。

 まず響いたのは歌声。

 平和を願う清らかな旋律。


 そうして見上げた先に、月の化身のような美しいものがいた。