チラリとあたしを見た久保くんはすぐにまた視線を反らして「してねぇよ」と答えた。


 ……メッチャ怪しいんだけど!?


「ねぇ、本当に? 本当にしてない?」

 不安になって詰め寄ると、どんどん後退りされる。

 その態度がさらに怪しく思えて、あたしは彼の腕を掴んだ。


 すると久保くんは掴んだあたしの手を凝視して……。


「あ……ああぁぁ!」

 顔が目に見えるほど赤くなり……。


「本当に、なんもしてねぇよーーー!!」

 あたしの手を振り払って逃げて行ってしまった。


「……」

 え? なにあれ?


 久保くんの叫びに、騒がしかった教室がシンと静かになる。

 その中に一人、しのぶの声が響いた。


「女好きの久保くんが、純情少年になっちゃった……」


 何だそれ、とも思ったけれど、確かに今の反応はそんな感じに見える。

 あれだけヤらせろとか言ってきてたのにどうしてしまったのか……。


 疑問はあるけれど、ある意味心配事が減ったのかな?


 いじめの方も何とかなったし、やっとこの学校で普通の生活が送れそう。



 現時点で普通の生活なんてほど遠い状態になっているというのに、このときのあたしはある程度の決着がついたことで安心してしまっていた。



 波乱の学校生活は、まだまだ始まったばかりだっていうのに……。





【地味同盟~かぐや姫はイケメン達から逃れたい~ 第一部完】