「どうしてもここが良かったんだよ。理由は話しただろ?」

「だから黙ってたってかこの詐欺師ー!」

 あたしは叫びとともに立ち上がって持っていた食べかけのコッペパンを奏の口に突っ込む。

「んぐっ!」

 そして心の中でも悪態をついた。


 梅内さんに会いたかったからってか!?

 頬を染めそうな仕草しちゃって!

 乙女かあんたは!?



「もごっ! わんはんあお!?」

「何言ってるかわかりませーん」

 パンをくわえたまま抗議の声を上げている奏にあたしはわざとらしく言う。

 いい気味だ。


 でも突然始まった兄弟喧嘩に梅内さんが驚いている。

 ……いや、梅内さんだけじゃなくて周りの人たちもだ。


「あ、やば……」

 ただでさえ悪目立ちしているというのに、さらに悪い意味で目立ってしまった。

 今はまだ食事中。
 さっきと違ってそそくさと逃げることも出来ない。


 とりあえず座りなおしてやり過ごそうかと思ったところに、「ははっ」と爽やかな笑い声が聞こえた。

 かすかな笑い声だからそんなに大きな声じゃなかったはず。

 それでもはっきりと聞こえたのは、その声が良く通る声だったから。


 反射的に声の方を見ると、そこには王子様がいた。