「あーあ、ケガの一つくらいすれば良かったのに」

 聞こえるか聞こえないかの微妙な声量でそんな声が聞こえてくる。

 チラッと見ると、前にあたしをトイレに閉じ込めようとした子達だ。


 やっぱりあれで懲りてはくれなかったか。


 あたしは他にも何か入ってないか調べながら考える。


 彼女達が主犯?

 いや、そういう感じはしない。

 むしろ主犯グループになりえるような人達はまだ直接何かをして来てはいないだろう。


 多分今の段階では――。


『あの子って目障りよね。誰か身の程をわきまえられるように注意してくれないかしら』

 とか悪役令嬢さながらの言葉でも言っている状態じゃないかな?

 それで巡り巡ってこういういじめという形であたしに伝わる、と。


 でもあの子達ですらいきなり刃物出してくるくらいだ。

 明日からはハードな学校生活になりそう。


 あたしはため息を吐き、物思いに(ふけ)る。


 しのぶも遠ざけて一人になって、一人で戦っている状態。

 でも、本当は一人なんかじゃない。


 あたしには、奏がいるから。

『俺はいつでも一緒にいるから! 俺だけは絶対、お前を裏切らないから!』

 二年前のあの日。

 あの朝焼けの中で言ってくれた言葉がある限り、あたしは常に一人ではないんだ。