音無くんは、今日も図書室で歌う

歌詞を見ながら音無くんの歌を聴き、たまに目が合うと微笑まれる不思議な幸せな時間。

それが終わった。


音無くんの声から
言葉から
全てから伝わった。


この図書室で当たり前のように会える日々を、楽しみにしてくれていたのは音無くんも同じだったんだ。

この当たり前の日々がなくなってしまう事も、音無くんは考えてくれていたんだ。


最高の音楽だと言ってくれた。



音無くんはカウンターから降りて、あたしの前に立つ。立っている音無くんを見ることはあまり無いから、こんなに身長が高かったんだと驚いた。



「僕のあの曲好きだったでしょ」

「うん」

「全く別のにしようとしたけど、君はあの曲を聴くとき、楽しそうな顔するから。だからベースをあの曲にしようと思ったんだ。あの曲なら君も歌えるから」

「うん。嬉しい」



「でも誤算だった」


そう音無くんは呟いた。誤算?何かそんな風に思う部分でもあったのかな。


ズイッと音無くんの顔が近づいて固まってしまう。な、なに!?


「君が音痴だった」

「え?そ、それが誤算なの?」


音無くんは今日はよく笑う。
クスクス笑って、続けてあたしの耳元で言うんだ。