「そんな男のそばには、自己肯定感が低くなんの取り柄もない女の子がいます。最初は幸せに暮らしていたふたりですが、次第に、女の子は悩み始めます。〝なんの取り柄もない自分がいつまでも男の傍にいてもいいのだろうか〟」
そこで一度切った佐鳥さんが、私が目を合わせるのを待っていたようなタイミングでにこりと笑った。
「さて、その答えは?」
佐鳥さんの笑顔には、悪気はなさそうに見えた。
でも、そういえば、佐鳥さんは以前も岩倉さんと私の同居に疑問を持っていた。
『あくまでも俺の考えだけどさ、付き合ってるわけでもない男女がずっとこのままっていうのはおかしいから、まぁ、とりあえずのけじめは必要だよね。治療って名目で同居を決めて、今はそこそこ桜ちゃんの体調も回復してきてる……ってなると、どこかで線引きしないとすれ違いも生まれるだろうし』
もしかしたら、佐鳥さんは私がここで暮らすことをよく思っていないのかもしれない。
だとしても、当然だ。
大学時代からの友達である岩倉さんが、急になにも持っていない、しかも精神的にも体調的にもこじらせている私なんかと同居を始めたら心配するし……きっと、私を警戒もする。
佐鳥さんがちょこちょこ顔を出すのも、私の監視が目的だろうか。
仕方ないとはわかっていても、岩倉さんに対して害を与えるかもしれないと思われていることを考えると悲しく思った。
ピーッという電子音にハッとして、電子レンジを開ける。
クッキングシートの上でじくじくと焼けたクッキーにホッとしながら、ミトンをして天板を取り出し、IHコンロの上に置いた。
それから、ゆっくりと佐鳥さんと目を合わせた。



