そんな気配は感じていただけに、それだけ返す。
御法川さんは美人だし、性格も明るくてハッキリしている。態度も上品で、岩倉さんが嫌がる要素はないように思うけれど……なにかあるのだろうか。
色とりどりのマカロンを眺めながら不思議に思っていたとき、岩倉さんがふと言う。
「タイミングが悪すぎたな。出穂には会わせたくなかった」
目を伏せた岩倉さんの横顔は思いつめているようにも見えた。
真剣に後悔している様子で、思わず「どうしてですか?」と声をかける。
でもそのタイミングで後ろから「わぁ、やっぱりこれだけたくさんあると悩みますね」と御法川さんが話しかけてきたので、笑顔を作る。
「全部おいしそうですよね」
モデルみたいな御法川さんを前にぎこちなく答えたところで、テーブルにひとり残された佐鳥さんが〝ごめん〟とでも言うように片手を縦にして顔の前にあげているのに気付いた。
私の隣では岩倉さんがテーブルの方を見て睨んでいたので、ふたりの間でのジェスチャーなのかもしれない。
「それだけでいいのか?」
私のトレーを見て聞く岩倉さんにうなずく。
「はい。きっと欲張ってとっても残しちゃうので」
「食べ終わって余裕があったらまた選びにくればいい。戻ってコーヒーでも頼むか」
「はい」
歩きだすと、岩倉さんが私の腰に、支えるように手で触れる。
きっと私がトレーを持っていて危なっかしいからだろう。
御法川さんに睨まれている気がして、後ろは振り向けなかった。



