佐鳥さんや私の前ではたまにあるけれど、敬語を使うような相手を前にしてというのは彼らしくない気がする。
そして、そんな岩倉さんのオーラを当の御法川さんがなにも察していないようだから、余計にハラハラしていた。
「岩倉さんは普段はどういったお店に行かれるんですか? もし外食がお好きなようでしたら、今後もご一緒しませんか? 私カフェを巡るのが好きで、休日はよく探索してるんですよ」
キラキラした笑顔で言う御法川さんに、岩倉さんは「残念ですが」と口を開く。
「個人的には外食よりも自宅で食べるのが気楽で好きなので。今日もしつこく誘われたから出てきたようなものです。……ああ、こいつは外食が好きですから、御法川さんとも話が合うかと」
佐鳥さんを手で示して言う。
そんな岩倉さんの態度に、御法川さんは目を輝かせた。
「あ、そうなんですね。では、ご自身でお料理されるんですか? 私も時間のあるときはキッチンに立つんですよ。今度一緒に作るのも楽しそうですね」
岩倉さんはそれには返さず、ただわずかな微笑みを浮かべ目を伏せる。
それから私を見て「出穂」と呼んだ。
「はい」
「デザート食べるだろ。取りに行くから一緒にこい」
席を立った岩倉さんに続いて立ち上がる。
その瞬間、御法川さんの厳しい眼差しが私に向けられた気がしたけれど、軽く会釈だけして岩倉さんのあとに続いた。



