「私、御法川椛と申します。岩倉さんには父の会社の顧問弁護士をして頂いて四年になります」
「へぇ。そうなんだ。御法川さんもお父さんの会社で働いてるの?」
「はい。秘書として働いて八年目になります。なので、社内でも岩倉さんとは顔を合わせることも多いんです」
そんな挨拶から始まった会は、表面上は穏やかに時間が流れた。
コミュニケーション能力がずば抜けている佐鳥さんがこの場にいてくれてよかったと心から思った。
御法川さんは岩倉さんのクライアントの娘さんだ。
絶対に失礼があってはならないと、私も気を引き締める。
席についてからも、御法川さんは岩倉さんに私との関係を聞いていたけれど、岩倉さんは「そんなようなものです」と誤魔化していたので、御法川さんもさすがにそれ以上は突っ込んで聞いてこなくなった。
「大学から一緒なんですね。岩倉さんと佐鳥さん、ふたりが並んでいたら女性が放っておかなかったでしょうね」
「いやいや、まぁ、そういうこともあったけどね。でも岩倉はずっとこんな感じだから、俺が全部いいとこどりした感じかな」
御法川さんと佐鳥さんの会話が弾むなか、私も最初は笑顔を浮かべていたのだけれど……隣に座る岩倉さんの機嫌があまりによくないので、そっちの方が気になって、話を合わせて愛想笑いを浮かべることに集中できない。
たぶん、岩倉さんは御法川さんとランチをするのが本意ではなかったんだろうなとはわかるものの、大人で冷静な岩倉さんがここまでピリピリした雰囲気をまとうのは珍しく思えた。



