「今、何か言ったかぁ?」

 いつの間にか近くに来て立っていた陸斗が、地の底からはい出て来るような声でそう言う。


「ひっ!」

「さっきもう手は出さねぇとか言ってたよなぁ? 俺の空耳だったのか?」

「ひぇっ!」

 押しつぶすような威圧感に、彼はあたしの手を離し物凄く怯え始める。


 流石にこのままじゃマズイ。

 暴力は振るわないだろうけれど、今の陸斗はマジ切れ寸前って感じで怖い。

 クラスメイト相手にするような態度じゃない。


 元総長って事だけはバレて欲しくないあたしは、立ち上がって陸斗の視界から彼を見えないようにする。

「陸斗、落ち着いて。冗談に決まってるじゃない。あたしは陸斗と付き合ってるんだから」

 陸斗の怒りを誤魔化すようにことさら明るい声で言う。

 そしてまだ怯えている彼に「そうだよね?」と同意を求めた。


「お、おう。そうだよ。人の彼女取ったりなんてする訳ねぇじゃん。冗談だって!」

 そう言い終えると、彼は何とか立ち上がって足をもつれさせながら教室を出て行く。