「で? 仕方ないから俺で我慢しておこうとか?」

 妖艶に微笑んでそんなことを言う日高くん。

 これが本当に初めて会う女性とかならドキッとかするのかもしれないけれど……。


「……」

 あたしは寧ろ死んだ魚の様な目で見返していた。

 予想外の反応だったんだろう。日高くんも何やらおかしいと気付いたのかメガネを戻して黙り込んだ。


「はあぁー……。うん、取りあえず行こうか、日高くん」

 大きなため息をついて、本当に用件だけを口にする。

 何だか待ち合わせだけで疲れた。


「え? 何で俺の名前……ってか行こうかって……く、倉木……なのか?」

 本気で信じられないものを見たという驚愕の表情。

 あたしはそれに容赦なく止めを刺す。


「そうだよ、倉木 灯里です。もういいからさっさと行こう」

 そう言って歩き出したあたしの背後で、日高くんの「嘘だろう?」という呟きが聞こえた。