「あ、すんません。人を探してて良く見てなくて」

 男の人は誰かにぶつかられたみたいだ。


 でもこの声って。


 よく見ると、男の人にぶつかったのは日高くんだった。

「あ――」
「てめぇどこ見て歩いてんだよ!」

 日高くん、と声を掛けようとする前にまたしても目の前の男の人に(さえぎ)られる。


「いや、だからすみませんって。よそ見してたんで」

 日高くんはもう一度謝って説明し直す。


「ああ? 人にぶつかっといてすみませんだけで済むと思ってんのかぁ?」


 いや、普通はそれで済むよ。


 なんて突っ込むことも出来ず、あたしは成り行きを見ているしかなかった。

 止めようとしても男の人が遮るし、何より止める間もなく日高くんに掴みかかって行ったから。