「仕様から、今年お作りのハンカチーフとお見受けしました。まさかとは思いますけれど、毎年デザインが異なっていることも知らず、確かめずに――――私をお疑いに?」


 見据えられ息を詰める二人に、エドナは目を細めてみせた。

 モルテッサ産のハンカチーフといえば、数十年と前に起きた災害の影響が今なお残るモルテッサ領を支える名産品である。
 素材の生産量自体まだ回復しきらず、刺繍の担い手もまた災害当時に外へと流出してしまった経緯もあり、純モルテッサとなる品は希少。
 それでも保たれる品質にエドナは毎年感心して、領地発展のためにこのハンカチーフは必要不可欠だと確信していた。

 侯爵が領地の疲弊に心折れたために戦略が一貫せず、希少性を逆手に価値を高めるような方向性を目指してみるのも手だろうに強気に出る勇気はなかったらしく、供給量を維持出来もしないのに目先の収入欲しさに安売りに走ったり、質の劣る素材をよそから仕入れてまったくの別物が出来上がってしまったりとすることもあったが、ここ数年でようやく諸々安定してきたところだった。

 侯爵や後援者、そして何より土地の者が苦労して価値を築いてきたものだ。まわり道をしながら、試行錯誤を繰り返し、伝統を重んじながら流行を取り入れ――。

 その値打ちを理解もせず、ありもしない罪の証拠として軽々しく用いられようとは。何より侯爵の後継という立場でありながら父親と領民のそれら努力に見向きもしないギルバートの無関心さ。

「ちなみに……私がいただけなかったそのハンカチーフの在処も、もちろんお確かめになったのでしょうね?」
「なっ、ソフィアを疑うと言うのか!?」
「私はどなたのこととも申しておりませんし、そうもお粗末な証拠しかなく私を疑うあなたにお怒りになる権利があるのかしら」
「目撃者だっている!」
「それもあなたたちのお友達でしょうに」