「私が手伝うのは、これ以上は無理よ。……でも、氷を安価で入手する方法がないか考えてみるわね。塊の氷を手に入れて、販売する前に細かく削ればいいと思うの。氷を削る機械は、たぶん金属加工の業者に頼めばできると思うわ。……私がいなくても、続けられる方法を考えないとね」

 イブの母親は残念そうな顔をしたが、やがて「機械の設計はこちらで考えます」といった。

「そうね。今度また相談しましょう。ポリー、悪いのだけど、サンダース商会を窓口にしてもいいかしら」

「もちろんです。父に言っておきますね」

「お姉ちゃん、もう行っちゃうの?」

「ええ」

 イブが見上げてくる。フィオナはほほ笑んで彼女の頭を撫でた。

「ありがとう。お姉ちゃんのおかげで、今日は楽しかった」

 イブの笑顔が今日一番うれしい。イブだけじゃなくどんな子供たちにも、笑っていてほしいと、フィオナは素直に思った。

(自分の国民……か)

 一人ひとりと知り合えば、愛着が生まれる。

「みんなが幸せになれるといいわよね。きちんと仕事について、学校にも行けるように」

 数人なら、施しで救うこともできるだろう。しかし、フィオナが持つ財源にも限りがあるし、王族としては、手の届くところだけを見つめていては駄目だろう。
 平民たちが、自分たちで生活をしていけるように、稼ぐための手段、そのための学力を身に着けさせることが大事なのだ。
 フィオナが……王家のものがやるべきことは、きっとそういうことなのだ。施しではなく、彼らの自立を支援することが重要なのだ。

 ひとりごとのようにそう言えば、「そうですね」とポリーがほほ笑む。「孤児院事業はそのための一歩じゃないですか。がんばりましょう」

「そうですよ。俺、また氷レモネードが食いたいので、ぜひ先ほどのお店にはがんばっていただきたいです」

 元気なポリーと食い気いっぱいのカイに勇気づけられた気がして、フィオナの足取りは少し軽くなった。