「お兄ちゃんみたいに強くなるにはどうすればいい?」
「血反吐を吐くほど練習するんだよ。才能でつよくなれる奴なんてひと握りだ。負けたくなきゃ鍛えるしかないだろ」
「できるかなぁ」
「そう言っているうちは無理だよ。できなくてもやるんだ。特にお前たちは親がいないってだけで不利な立場にいるんだからな。迷っていたなら置いていかれるぞ」
厳しいようだが、正しい意見だとフィオナは思う。腕に抱いているドルフは『では俺はひとり握りに入るな』などと自画自賛していた。
サンダース商会で検品と納品をしている間、カイはポリーから小さな紙袋をもらっていた。お金の袋を預かり、帰宅の途につくとポリーが説明してくれる。
「カイさんはうちの店の常連なんですよ。それで顔見知りだったから何かと助けてもらっていて。お礼に店のあまりものとか試供品とかをあげているんです。……王宮侍女になってから、フィオナ様付きになるまで、私結構大変だったんです」
「試供品って?」
「お試し品って感じですね。ほら、紐編みの髪飾りもそうですけど、実際につけているのを見たから買うって言う人や、信用する人がいいって言っていたから買うって言う、判断を他人にゆだねている人って、案外多いんです。だからいろんな人に試してもらって、よかったら買ってくださいって形をサンダース商会ではとってるんです」
サンダース男爵はやはり一代で財を成しただけはあるのだろう。ただ漠然と売っているのではなく、ちゃんと計算されているのだ。
参考になるなぁ……と思いながら、広場に差し掛かると、以前も賑わっていた露店に行列ができている。そして相変わらず、レモネード屋の少女が困っていた。



