「どうしてですか?」
「どうしてって……。私の頼みを聞いてくださるのなら、あなたが上流階級とお付き合いするときに便宜を図ってあげられるわ? あなたも結婚適齢期ですし、高位の男性には興味あるでしょう?」
ジェマが思いつく最大限の餌を蒔く。しかし、ポリーは眉根を寄せただけで首を振った。
「あいにくですが、私はお仕えしているフィオナ様を裏切る気はありません」
「は? あなた。敵国からの側妃についてもメリットなんてないわよ?」
「メリットっていうか。私、今ものすごく楽しいですし。敵国だというのも過去の話じゃありませんか。フィオナ様は友好のために嫁いでこられたんでしょう?」
それはそうだ。しかし、あの戦争馬鹿のオスニエルが、結婚による講和に満足しているはずはない。いずれは、戦争を仕掛けるとジェマは踏んでいる。
「あなたね。大局が全然見えていないわ。これだから成金男爵家は……」
「ほら。ジェマ様は私のことがお嫌いなのでしょう? だったら、私もジェマ様に協力するメリットなんてありません。従ったとしても、すぐ裏切られる予感しかありませんもの」
「なっつ、あなた失礼すぎるわ」
「申し訳ありません! 失礼します!」
晴れやかに頭を下げて、ポリーは戻って行ってしまった。
当てが外れたジェマは、途方に暮れたまま、ポリーを見送ってしまったが、はっと我に返ると、気合を入れるように頬を叩いた。
「呆けている場合ではありませんわ。とにかく、私は私で人々を集めませんと」
ジェマは、わざとフィオナのお茶会の重なる日程で伯爵令嬢以上の身分の高い女性たちに招待状を出し、地盤固めにいそしんでいった。



