8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 オスニエルの気配が遠ざかったことを確認して、ドルフはもともとの姿に戻る。ふん、と
鼻息を荒くし、のんきな顔で寝ているフィオナを眺める

『全く、無防備で迂闊で、子供のころから変わらんな』

 聖獣にとって、王家の子どもは特別だ。

〝王家の子どもが十三歳になれば、加護を求めにやってくる〟

 それはルングレン山に住む聖獣に言い継がれてきたことだ。いつの間にか慣例となっていて、聖獣たちは山に入ってきた子が気に入れば、手を上げる。その中で、一番力の強い聖獣が加護を与えるのが慣例となっていた。

 ドルフはそれに納得がいかなかった。どうしてちょっと見ただけの人間を信用し、加護を与えようと思うのかがわからない。
 初代国王は確かに聖獣と友達だったのだろうが、今の王家の人間は、加護を得るためだけに自分たちを求めているのではないか。
 だからドルフは、どの子供にも加護など与えるつもりはなかった。一方的に利用されるなどごめんだ。

 だがある日、フィオナが幼馴染みふたりとはぐれ、山の中をさ迷っていたときがあった。
 仕方なく道案内をしてやるために、怖がらせないように子犬の姿になって現れれば、フィオナは涙にぬれた顔で、『あなたも迷子?』と言ってのけた。
 ふざけた娘だと思った。迷子はお前だ、とも。

 けれども、『怖くないわよ、ほら』と涙を拭いてドルフを抱きしめた。
 体は冷たくなっていたし、震えてもいた。けれども、この状況で自分より小さいもの(まあ見た目だけだが)に対して、優しさを見せれることには、素直に感心した。

『キャン』

『あ、待って』

 ドルフは彼女の腕を飛び出し、森の出口を目指して、フィオナがついて来られる速度で走った。

『あ、あそこに護衛がいる!』