8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 近づいてくるのは彼の端整な顔だ。やはり見目が良い……と見とれていると、鈍い音と共に、彼が倒れ込んできた。

「きゃっ」

 肩に頭を埋められて、彼の体重が容赦なくのしかかる。苦しい。
 すぐに彼の背中からドルフが顔を出し、大きくなって彼の服を加えて持ち上げた。どうやらオスニエルは意識を失っているらしく、だらんと腕を伸ばしていた。

「なにが起きたの……!」

『お前がぼーっとしているから、俺がこいつの頭を蹴ってやったんだ』

 オスニエルの下から抜け出し、そのままソファに彼を寝かせる。触ってみれば、確かに後頭部にたんこぶができている。

「ありがとう。ドルフ」

『ふん。嫌がってもいなかったのだろうがな』

「そんなことないわ」

 フィオナは真っ赤になって首を振ったが、ドルフは冷たい目を向けるだけだ。

『誤魔化しても無駄だ。加護の力が発動しなかったということは、お前は嫌じゃなかったんだろ』

 たしかに、街で男に触られそうになった時は、氷魔法が発動した。あの時も、フィオナが出そうと意識したわけではなかった。

「でも、それは」

『ふん。お前はすぐほだされる』

 ぷい、とそっぽを向き、ドルフは寝室へと行ってしまった。残されたフィオナは途方に暮れる。

「ほだされてなんかないわよ」

 オスニエルをソファに寝かし、毛布を掛ける。簡単にテーブルの上を片付け、彼の飲みかけのお酒を一口だけ口にした。

「おいしいじゃない」

 飲み口のいいお酒だった。
 オスニエルが飲んだのは二杯くらいで、まだ瓶にも残っている。強そうに見えるが、意外とお酒に弱いのかもしれない。

「とりあえず言質は取ったし、明日は令嬢たちとのお茶会もあるし、堂々と稼ごう!」

 決意を固め、調子に乗って飲み続けたフィオナは、やがて本当に酔ってしまった。
 視界がクルクル回るし、頭はぼーっとするし、なにより気が大きくなっていた。

 ソファに横になる、理想の顔のオスニエルを見つめる。
 通った鼻筋、薄い唇、意志の強そうな瞳。力は強いのに、どこか繊細さを思わせる顔だ。

「見た目はすごく好きなんだけどなぁ……」

 どうせ起きないと思い、フィオナは彼の鼻筋を指でなぞる。
 酔った頭で思うのは、これまで何度か繰り返した人生だ。
 彼の妻になった人生も、彼に抱かれた人生もあった。それでも、こんな風に彼の無防備な顔を見ることはなかったように思う。

「寝ているオスニエル様は、かわいい……」

 彼の顔を撫でているうちに、フィオナも眠気に襲われる。そのまま突っ伏したら、すぐに意識を失ってしまった。