8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「あくまで後宮の主人は自分だと?」

「ええ。ですから、速やかに婚儀の話を進めていただきたく存じます」

 オスニエルはジェマ嬢を見つめた。
 高慢ささえ感じさせるが、王妃となるには必要な資質だろう。後ろ盾となる父親も、野心のありそうな男ではあるが才はある。彼女ならば、オスニエルが戦争で留守にしている間、城を任せても問題ない。

 そう思うのに、なぜか気分は乗らない。頭の中に、フィオナの影がよぎる。人質の姫はいったい何をしているだろうか。
 たおやかな外見とは裏腹に、強盗に襲われても平気な顔で騎士団の前に現れたり、この自分に向かって言い返してきたりする。

「……おもしろい女だ」

「え? なんですの?」

 知らず、口に出してしまっていたらしい。オスニエルは口もとを押さえ、ジェマ嬢を振り返る。

「あいにく、フィオナと結婚してまだひと月もたたない。悪いがここから一年はほかの女を娶るつもりはない。待てないというのならば、他の男に嫁ぐといい」

「ちょ、オスニエル様?」

 軽やかに、オスニエルは駆け出した。彼女はフィオナを女狐と言ったが、どちらかと言えば、彼女こそその呼称が似合う。

(フィオナはもっと……)

 心を震わす女。それが彼女だ。ぴたりと合う呼称をオスニエルは見つけられない。

「オスニエル様!」

 ふいに、背中に声をかけられた。それが、たった今考えていた彼女からだったから、オスニエルは自分でも驚くほど動転してしまった。

「……フィオナ」

「あの、お話があるのです」

 彼女は腕に犬を抱いていた。余程のお気に入りなのか、いつも一緒に居る。揚げ句に、お揃いの飾りなどつけているのだから、なんだかイライラしてしまう。果たしてこの犬はオスなのかメスなのか……などというどうでもいいことまで考えてしまった。

「なんだ?」

「ここでは、……あの。夜に部屋に来ていただけますか」

「…………ああ」

 たっぷりの沈黙の後、オスニエルは頷いた。その間の彼の思考は、ひと言でいえば〝混乱〟だった。