8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~


 オスニエルは主に軍部関係の仕事を請け負っている。

 現在は結婚したばかりということで遠征の予定はないが、ブライト王国と事実上属国とした時点で、更なる領土拡大のために今度は西の土地へと赴くことが決まっている。とはいえ、まだブライト王国との関係が確固たるものとはなっていないうちに、領土だけを広げるのは危険だという国内の反対意見も少なくなく、今しばらくは王都で調整の日々を送る予定だ。

 彼が王都にいる今を狙って、ジェマ・リプトン侯爵令嬢も毎日のように城を訪れていた。

「殿下」

「やあ、ジェマ嬢、また来たのか」

 ジェマは当然のように彼の隣を歩こうとする。オスニエルは少し不快に感じながらも、父侯爵との関係を考え、笑顔で対応した。

「どうしたのだ? 父上に用事でも?」

「いいえ。殿下とお話がしたいと思いまして。側妃を迎えられたことで、宮中の規律が整わないと父に聞きました。他の貴族令嬢よりも、あの方のほうが、立場が上になりますものね? でも誰も、敵国の姫を歓迎はしていらっしゃらないでしょう? そろそろ正妃を迎えられてはという声があると聞きましたわ」

 オスニエルに婚姻を求める声は前からある。本来ならば、側妃を迎える前に正妃を娶っておかなくてはならないのだ。しかし、戦地に赴くオスニエルには、ゆっくり花嫁選びをする暇もなかったし、婚儀などで呼び戻されるのもごめんだと思っていた。

「ああ。まあな」

「ご存知でしょう? 国王陛下も、私を殿下のお相手にと思っていらっしゃいます。私も……そう思って自分を磨いてまいりましたわ」

「その話は、父親同士でおこなわれるのだろう? 王子の結婚に自分の意志は関係ない」

「では、もう決まったようなものですわね。はっきり言いますわ。私、ブライト王国の女狐に後宮を荒らされるのが嫌なのです」

 気の強そうな目をきらめかせ、ジェマ嬢が不敵に笑う。美しい娘だとは思うし、胸も大きく扇情的な体つきをしている。それでも、なぜかオスニエルは不愉快な気分になった。