8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「……怒られちゃう」

「仕方ないわ。あなたにも悪いところはあるのよ。他の目的があって並んでいるのだもの、別のものを売りつけられそうになれば、怒る人がいてもあたり前でしょう」

「今、レモネードなんて流行らないですもんね」

 ポリーに言わせれば、レモネードのブームは一年前らしい。王都の流行の移り変わりは激しく、田舎から夢を見て都会に出て露店商となる人間は多いが、たいていはその変化の速さに追いつけずに潰れていくのだそうだ。

「流行りねぇ。いいわ。これは私が買い取るわね」

 少女の手のひらに銅貨を一枚のせ、レモネードを受け取る。ずいぶんと炭酸が抜けて甘い水のようになっていた。それにぬるい。フィオナはこっそりと氷を作り出して入れてみた。冷たい方が断然おいしい。

「氷を入れて売ったらどう?」

 少女は首を振る。

「フィオナ様、氷は高額なんですよ。保管が大変ですからね」

「まあ、そうなの」

 ブライト王国では、ルングレン山が近く、氷や雪は簡単に手に入れられた。そもそも、結界が張られ、温暖となっている地域以外は、常に池が凍るくらいには寒い地方だ。
 ふわふわの雪は、フィオナにとってはおやつのようなものだった。溶ければただの水だけれど、雪はその食感が楽しく、不思議とおいしいような気分になったものだ。

「雪を……そう、雪よ」

 氷の粒子をできうる限り細かくし、一気に器の中に投入する。すると下に沈んでいたレモネードの液体が、ジワリとしみだしてくる。

「こうしたらおいしいんじゃないかしら」

「……フィオナ様、この雪はどこから?」

「まあまあ、それは置いておいて」

 ポリーの疑問はもっともだが、フィオナは無視することにした。

「おいしい……!」

 少女がぽつりと口にする。

「シャリシャリして、口の中で溶けてくの。時々シュワシュワするところもおいしい」

「気に入ってもらえたならよかったわ」

 フィオナはにっこりと微笑む。すると、商人魂が刺激されたのか、ポリーが「私にも味見させてください!」と身を乗り出してくる。