8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 フィオナは眉を寄せる。待ち時間も長く、嫌になる気持ちはわかる。が、子供にあたるのはあまりに大人げない。

「ちょっと、小さい子に向かって、その態度はないんじゃない?」

「ああ? 小さいってったって売り子だぜ? しかも、こいつはほかの店から客を取ろうとしていたんだ。悪い子にお仕置きして何が悪いんだよ」

「呼びかけていただけでしょう。買う気がないなら動かなければいいだけだわ。……大丈夫?」

 フィオナは列から抜けて、少女を抱き起そうとした。そのタイミングで、男たちがフィオナの腕をつかむ。

「威勢のいいお姉さん、ずいぶん美人だな」

「無礼よ、離しなさいっ」

 不愉快だ、と思った瞬間に、額がカッと熱くなった。彼の腕を払った指先から、男に向かって、氷の粒が飛んでいく。

「うわっ、なんだ?」

 フィオナ自身もびっくりしている。一体何が起こったというのか。

『氷の魔法だ。お前の不快な感情に反応して発動したんだろう』

 ドルフの声が頭に聞こえる。彼がくれた加護の一部だ。

「……そうか、私には氷の魔法があったんだった」

 だが、ここは人前だ。加護の力を大っぴらに使って目立つわけにはいかない。

(でも氷なら残らないはずよ。石ころくらいの大きさで、こんな風になれば……)

 フィオナの望んだ大きさの氷粒が手のひらに出来上がる。
 そして、突然自分に降りかかった氷の粒に驚いてきょろきょろしている男の背中に近寄り、襟ぐりからこっそりと氷を忍ばせる。

「うわっ、つめてぇっ。お前、なにしやがった」

「なにもしていないわ。突然ひとりで騒ぎだして、あなたこそなんなんです。私はこの子を助けたいだけです。もうあっちに行ってください」

 とりあえず、溜飲は下がったので、フィオナは少女を起こし、離れたところにあるベンチ迄連れて行った。ポリーにハンカチを濡らしてきてもらい、スカートについたレモネードのシミをふき取る。

「大丈夫?」

「うん。でも、零れちゃった」

 レモネードの器は割れてはいなかったが、中身が半分くらいになっている。

「これは品物にはならないわね」

 フィオナが苦笑して言うと、少女は顔をぐしゃりと歪ませた。