8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 帰りは寄り道だ。ポリーに頼んで、先日のお茶会で聞いた人気のスイーツの販売場所を教えてもらう。

「レインボーキャンディのことですか? であれば、こちらです!」

 ポリーが連れてきてくれたのは広場だ。屋台は多く立ち並んでいて、掛け声がいたるところから響いてきて、活気がある。
 どうやらお店まで構えられない平民は、ここで屋台を開いて生計をたてているらしい。

「賑やかね」

 呼子の声が行きかい、腕を組んで歩く男女や、親子で歩く人々などでごった返している。
 フィオナはワクワクしてきた。かつて平民暮らしをしたときは自国だったので、正体がバレないように家に閉じこもりがちな生活をしていたから、賑やかな市場にくることなどなかったのだ。
 ひときわ長い行列ができている屋台が、どうやらお目当ての店のようだ。

「私が買ってきましょう」

「いいえ、私も並びたいの。一緒に行きましょう」

 町娘のように友人とこんなところに来るのは、フィオナのこれまでの人生で体験しなかったことだ。ポリーと肩を並べて、フィオナは列に続いた。

 買い終えた人たちが手に持っているのは、ふわふわとした雲のようなものだ。ポリーいわく、これは着色した砂糖を糸状にしたものらしい。それを棒で巻き取っているのだそうだ。カラフルで、虹を写し取ったかのようになっている。

「綺麗ね。食べるのが楽しみだわ」

「本当ですね」

 きゃっきゃっと歓談していると、小さな女の子が、声を張りあげながら歩いてくるのが見えた。

「レモネードはいかがですか? おいしいですよ」

 まだ学校に行くような年齢に見えるが、呼子として働いているようだ。待ちくたびれた人を狙っているのか、行列のひとりひとりに声をかけている。
 だが、レインボーキャンディ狙いの人々は見向きもしない。フィオナはだんだん気になってきてしまった。

「うるさいぞ!」

 突然、男性のふたり組が、その子供を突き飛ばした。
 小さな悲鳴を上げ、女の子はしりもちをつく。持っていたレモネードがこぼれ、彼女の腕やスカートにかかってしまった。