三日後、フィオナはこっそりと後宮を抜け出すことにした。
 街に出るなら、ついでに、髪飾りと首輪を販売してくれているポリーの父親にも挨拶をしておきたい。
 フィオナは悩んだが、ポリーにドルフの正体を明かすことにした。
 今後のことも考えれば、秘密を共有して協力してくれる人間は必要だ。
 一回目の人生のときとは違い、今のポリーは全面的にフィオナとドルフに心酔しているから大丈夫だろうと思ったのだ。

「なんと、聖獣……? どおりで、並みのかわいさではないと思ったんですよ」

 結果、ポリーは机の上にお座りしているドルフを拝みだしてしまった。

『フィオナ。こいつを何とかしろ』

「いや、なんとかって言われても」

「フィオナ様独り言多いなって思ってましたけど、それもドルフ様とお話なさっていたのですね!」
 あり得ないほどあっさりと、ポリーはそれを信じてしまった。

「ドルフ、ポリーにも本当の姿を見せられる?」

『構わんが……』

 ドルフはめんどくさそうに言いながら、机を蹴って飛び立った。床に着地するときには、銀色の神々しい聖獣の姿となる。
 ポリーは目を輝かせてそれを見ていたかと思うと、「ははー」と再び拝みだした。

「神々しいっ。さすが神の使いですね」

「……聖獣って別に神の使いじゃないわよね」

『そうだな。俺は別に誰にも仕えてないぞ』

 だがポリーの中ではそういう理解になるらしい。誤解と解こうか迷ったが、特に困るような感じでもなかったので、そのままにしておこう。

「というわけでね。ドルフに頼めば、一瞬で外に出られるのよ」

「そんなことが可能なのですか。凄い。かわいいだけじゃなくて格好いいですね」

「だから、ポリーはお使いとして先に出てくれるかしら。私はこっそりドルフと行くから」

 自分の不在は眠っていると言えば誤魔化せるが、ポリーの不在はそうはいかない。

「分かりました。どうせ今日、フィオナ様の髪飾りを納品しに行く予定でしたので」

「頼むわね」

 先にお使いとしてポリーを出発させ、侍女長にはしばらく休むから後宮には近寄らないようにと言いつけておく。