晩餐が終わり、招待客が次々と帰路につく中、帰り際の女性陣は少しばかり盛り上がっていた。

「ねぇ、フィオナ様のドレス、素敵でしたわね」

「そうね、見たことのない飾りがついていたわ」

 上流貴族のご婦人方は、新しいものに目がない。すると年齢の若い伯爵夫人が、扇で口元を隠しながら「ふふふ」と微笑んだ。

「ご存知? あれ、サンダース商会で扱っていますのよ。髪飾りが売っていたわ。ペットの首輪とお揃いにできるのですって」

「まあ、ペットと?」

「それは、いいかもしれませんわね」

 中には、「犬猫と一緒のもの?」と怪訝な顔をするものもいたが、かわいいペットとお揃いにすることについては、好意的なものが多数だ。

「でも、サンダース商会では髪飾りと首輪飾りしか扱っておりませんでしたのに。ドレスに使うなんて斬新な発想ですわね。フィオナ様が考えられたのかしら」

 夫人たちは顔を見合わせる。フィオナのドレスについていたのは、販売していたものよりもずっと大きなものだった。

「特注されたのだとしたら、もっとずっと前から飾りに目をつけていたということでしょう? フィオナ様って流行の最先端をいっているんだわ」

「そうね。いつかお話してみたいわね」

 話の尽きない夫人たちを、冷ややかな目で眺めるひとりの令嬢がいた。赤色のドレスに、光をあつめたようなつややかな金髪。王太子の正妃候補として名高い、ジェマ・リプトン侯爵令嬢だ。

 今日、ジェマはオスニエルをダンスに誘うつもりだった。昔から、正妃になるのは自分だと自負してきた彼女は、側妃の目の前で、オスニエルとの仲睦まじさを見せつけようと思っていたのだ。
 しかし、オスニエルは女嫌いなのかと思うほど、どんな女性にもそっけない。ジェマに対しても、侯爵家の家門に対しての礼は取るが、それ以上の好意を向けられたことはない。
 どんな女性に対してもそうだから、ジェマは気にしていなかったのだ。

(ただ、……あの時)

 フィオナ妃を熱っぽく見つめる母国の護衛騎士。それを見ていたオスニエルが、唇を噛みしめたのをジェマは見た。

(オスニエル様があんな女に心を奪われるはずはないけれど、私の方でも、きちんと彼の心をつかまなければ……)

「ジェマ、帰るぞ」

「ええ、お父様」

 リプトン侯爵は国の重臣だ。権力の点からいっても、誰もが、正妃の座にはジェマが座ると思っている。

「人質同然の側妃なんかに負けるものですか」

 ジェマはつぶやき、後宮を挑むように睨んだ。