『フィオナ、起きてるんだろ? あいつ、いなくなったぞ』

 ドルフに言われ、おそるおそる目を開ける。ドルフはフィオナのお腹の上で丸まったまま、あきれたような声を出した。

『なに真っ赤になってるんだ、浮気者』

「真っ赤になんて……」

 慌てて顔を押さえれば、触れる手に熱が伝わる。熱い。寝ている間に言われたのなら、あれはオスニエルの本心ということでいいのだろうか。
 ひとり、身もだえているとドルフの尻尾がフィオナの頬を叩く。

『お前、簡単にほだされるなよ。あの王子が何をしたか、忘れたわけじゃないんだろ』

 ドルフが言っているのは、入国する前に殺されそうになったことだ。フィオナも思い出せば、熱で浮かれてしまいそうだった頭の芯が冷やされるのを感じる。

「……そうだったわね。私とオスニエル様の間にそんな感情が生まれるわけないんだったわ」

『そうそう。それより、あいつが居なくなったのなら、そのドレス、脱いだらどうだ。手伝ってやるぞ』

「どうやって?」

 フィオナが半身を起こしながら問いかけると、ドルフは大きな狼の姿になった。そして、フィオナの背中のボタンを器用に唇で咥え、外していった。

『できたぞ』

「驚いた。器用なのね、ドルフ」

『ふん』

 そのまま、フィオナはドレスを脱ぎ捨て、下着姿になる。夜着は用意されていたので、フィオナは体を締め付けるものすべてを外し、夜着に袖を通した。

「これで良し、と」

『お前は俺に対して羞恥心はないんだな』

 ドルフがあきれた声を出す。だが、フィオナにとってドルフはペットだ。家族も同然であり、裸同然の姿を見せても恥じらう対象ではない。

「なに言ってるの、ドルフ」

『……着替えたならさっさと寝ろよ。クマを作ったら、ますます不細工になるぞ』

「失礼ね」

 フィオナは頬を膨らませたまま、髪を止めていたピンを外し、楽な姿になってベッドに転がる。ドルフはもぞもぞとその中に入り不貞腐れたように眠った。
 彼の機嫌が悪い理由は、フィオナには思いつかなかった。