8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 そう言われるとフィオナも困る。足にすり寄ってきたドルフを抱き上げ、「では、部屋にお入りになりますか?」と誘った。

「……っ!」

 なぜか顔を赤くしながら、オスニエルが目をそらし頷く。

(おかしいわね。この王子様、こんなに初心な反応をする人じゃないはずなのだけど)

「も、もちろんだ」

「お茶をお出しいたしますわ」

 控えていたポリーにお湯を持ってきてもらい、フィオナは手ずからお茶を入れる。
 通したのは居間の方だ。寝室とは続き間になっているが、薄布によって隔てられている。オスニエルはソファにどかりと座り、落ち着かなさげにきょろきょろと辺りを見ている。いつもは自分の指定席であるソファを奪われたドルフはご機嫌ななめだ。

「どうぞ」

 テーブルに置いたティーカップを、オスニエルは咳払いと共に手に取る。
 目を伏せた瞬間の顔は、とても格好いい。フィオナは胸がときめくのを感じる。

(観賞用として楽しめばいいんだろうなぁ。ああでも、この後彼は、ジェマ・リプトン侯爵令嬢との縁談が進むんだわ。それを見ているのはおもしろくないなぁ)

 夫といっても愛はない。その関係を受け入れるつもりでいるが、フィオナの乙女心はやはり傷つく。

(私だけを愛してくれる人と添い遂げる人生は、私には用意されていないのよね)

 誰を選んでも駄目だった人生。なぜか八度目になってしまったけれど、結局はどうにもならない。

(もうやり直しもたくさんだわ。今度死ぬなら、二度と生まれ変わりたくない。愛を得られないフィオナでいるのはもうたくさん)

 フィオナは無意識に唇を噛みしめていた。するとオスニエルが、不思議そうに問いかける。