8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 そしてその後は晩餐会が開かれる。式には出席していなかったオズボーン王国の上流貴族も出席している。
 フィオナは次々と挨拶を受けたが、名前までは覚えられなかった。
 感極まった弟のエリオットは、涙ながらにフィオナの手を握った。

「姉上、どうかお幸せに」

「エリオット。泣かないで」

 エリオットは優しすぎるのだ。頭がよく、平和な時代には賢王になっただろうが、戦乱の世には向かない。森の知恵者であるフクロウの聖獣が、彼を好んで選んだのもよくわかる。
 彼には武力に秀でた頼りになる側近が必要だ。だからこそ、真面目で誠実なローランドは彼の助けになるだろう。
 フィオナはローランドにすがるような目を向けた。

「ローランド。あなたが頼りなの。どうかエリオットを支えて、ブライト王国を守ってちょうだい」

「肝に銘じます。フィオナ姫こそ、どうかお幸せに。私はどこにいても、あなたの幸せを心から願っています」

 握られた手は熱く、ローランドの熱っぽい視線が絡みついてくる。けれど、自分の分をわきまえている彼は、名残惜しそうに手を離し、苦笑して後ろに下がる。

「エリオット、気を付けて国まで帰ってね。ローランド、どうかエリオットをよろしく頼みます」

 今日は初夜だ。新郎新婦は宴を中座し、閨に入るのが慣例とされている。
 ふたりもそれに習い、晩餐の途中で退出の挨拶をし、ふたり揃って座を辞した。

「終わりましたね。お疲れさまでした」

 フィオナは後宮の自分の部屋の前でそう頭を下げた。そのまま立ち去るかと思ったのに、オスニエルは正面に立ったままだ。

「殿下?」

「お前……今日が何の日だか分かっているのか」

「? ええ。結婚式の日ですね。ですが殿下は、私に触れるのも嫌なのでは?」

 ループした人生の中で、誓いのキスさえしなかったのは今回が初めてだ。そんなに嫌なのかと、さり気にショックだったというのに。

「それは……っ」

 オスニエルはカッと顔を赤らめたが、「キャン」と扉の隙間から子犬が顔を出しているのを見て我に返った。

「そ、その通りだ! だが、なにもなく初夜が終わったと周りに知られるわけにはいかないのだ」