8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「あ、オスニエル様が手配してくださった針子の腕は素晴らしいですね。こんなに華やかなドレスになるとは思いませんでした」

「ふん。お前が貧相にしていれば、俺の、ひいては王家の財力が疑われるからな」

 余程昨夜の嫌味が気に障ったらしい。
 ああは言ったものの、フィオナの感覚では最初のドレスでも十分立派な部類だったのだが。オスニエル王国はもっとド派手なのが主流なのかもしれない。
 分からないことに口を出してもろくなことにはならないので、フィオナはできる限り黙って頷くだけにとどめた。

 国同士の結婚とはいえ、実際は攻め込まれそうな小国が大国に取り込まれたに過ぎない。側妃という立場もあり、結婚式は簡素なものだ。
 礼拝堂の扉の前につく。今は閉められていて、両脇に従僕が控えている。

「ではオスニエル様、フィオナ様、まっすぐお進みください」

 両扉が開かれ、多くの拍手がふたりを迎え入れる。

(まるで、本当に祝福されているみたい)

 フィオナは歩きながらぼんやりと思った。
 こんな拍手に、自分はこの国に受け入れられたのだと思ったときもあった。最初の人生だ。けれど、全て幻だ。オズボーン王国の人間は、フィオナが敵国の人間だということを、一瞬たりとも忘れなかった。敵ばかりに囲まれたフィオナの気持ちなど考えもせず、冷たく扱った。一瞬の高揚も、それを思い出せば冷めていく。

(私は、ここで、目立たず生きるの。愛なんて期待しない)

 気が付けば、神父が誓いの言葉を求めている。内容などひとつも頭に入っていないのに、フィオナは「はい」と答えた。
 やがてベールがはがされ、オスニエルの顔が近づいてくる。おそらくは最初で最後になるであろうオスニエルとの誓いのキス。
 唇が触れる瞬間、ひやりとした冷気が唇の前ではじけ、フィオナは身を引いた。オスニエルも同じだったようで、驚いたような顔でフィオナを凝視している。神父にはキスを終えたと思われたのか、「ではこちらに向き直ってください」とそのまま進行される。

 フィオナは素直にそれに従い、オスニエルは彼女に怪訝な視線を向けながらも式を続けた。