8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 言いながら、針子は早速手を加えていく。ドルフが近づくと、彼の首輪を見て、頬を緩めた。

「かわいらしいワンちゃんですね。愛犬とお揃いというのもいいですわね」

 ドルフはこの言葉に気をよくしたようで、尻尾をパタパタと揺らし始めた。
 支度がすべて整うと、ドルフは机の上に飛びのり、フィオナを眺める。

『なかなか悪くないぞ。あとはその怯えた顔をやめることだな』

「そうはいっても」

 腹を決めたとはいえ、いざ結婚式となれば緊張する。まして、相手は自分のことを疎ましく思っている人だ。
 うつむいていると、頬にドルフの舌が触れる。

『お前は美しい。俺のペットなんだから胸を張ってろ』

「その理由で、胸を張れるとでも?」

 思わず、声を出して笑ってしまう。すると緊張もほどけてきた。

『さすがに俺は式には行けないが。お前の身ぐらいは守ってやるから安心しろ』

「ありがとう、ドルフ」

 ホッとしたのもつかの間、ポリーが「オスニエル様がお越しです」と告げた。再び、フィオナの体ががちがちに緊張する。

「準備はできたか」

 入ってきたオスニエルも、礼装をしていた。彼は騎士としての側面が強いらしく、正装は白の騎士服だった。

(やっぱり格好いい)

 フィオナの目は彼の騎士服姿にくぎ付けになる。彼に恋などする気はないが、見た目が好みなのは変えられない。

 一方、彼はじろりとフィオナを見ると、黙りこくってしまった。

「あの、オスニエル様?」

「はっ、いや、式場に向かうぞ。新郎新婦はそろって入場するよう決められている。それだけだ。他意は無いからな」

「はい?」

 聞こえないような小声でつぶやいているオスニエルの腕に、フィオナは手をかける。とりあえずは式をこなさなければならないのだ。逆に言えば、式さえ済ませてしまえば、夫婦という肩書にはなるが、オスニエルとは関わらなくて済むようになる。