夜が明ける。婚儀の朝である。
なぜか朝からポリー以外に十名もの侍女がフィオナの元を訪れ、彼女を磨き上げていた。
「……どういうことなの、これは」
『お前が、あの王子を煽るからだろう』
コルセットを締め付けられ、ゼイゼイしながらつぶやくフィオナに、ドルフが答える。
「お苦しいですか?」
「いいえ。大丈夫」
ドルフの声が聞こえない侍女たちは、フィオナのひとりごとにいちいち反応しては、びくついている。
(そんなつもりで言ったわけじゃなかったのに。自分の財力を見せびらかすため?)
朝からやってきた針子は、オスニエルから指示されたと言って、用意していたドレスを、さらに美しく見せるため、レースを縫い足している。こんなギリギリになってから始めても、全体のバランスが取れるとは思えなかったけれど、オスニエルが頼んだ一流の針子の腕は確かだった。
着せ付けてもらった自分の姿を見たフィオナは、自分の姿だというのに、鏡の中の人物に見とれてしまった。
「……綺麗」
「ええ。とてもお綺麗です。フィオナ様は体のラインもお綺麗ですね」
肩の出たマーメイドラインのドレスが、細身のフィオナの体にぴたりと合っている。レースを加えられたために、初期のものよりもずっと豪華で華やかなデザインになった。
どちらかといえば色白で顔色の悪いフィオナだが、ピンクの頬紅を入れてもらったからか、健康的に見える。
『馬子にも衣装だな』
冷たいことを言うのはドルフである。
そこへポリーがやってきて、針子にフィオナの手慰みである紐編みのアクセサリーを見せ、耳打ちした。
針子は、飾りとフィオナを見比べ、「確かに、お似合いになると思います」とポリーに向かって頷いた。
「姫様、……もしお嫌じゃなければ、これも縫い付けても構いませんか?」
「え? いいけど。大丈夫? 私が作ったものなの」
「腰布の留め具のところにつけて、花が咲くように縫い付ければ、一層華やかになると思うのです」



