8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 その日の晩餐は静かに進んだ。オズボーン国王は、形ばかりは二国の同盟を喜んでいたが、エリオットに常に侮った目を向けていたし、オスニエルも挨拶以外積極的には話さなかった。

 フィオナはエリオットにばかり話しかけ、完全にオスニエルのことは無視している。
 時々、ローランドとも目配せし、ほころんだ笑顔をみせる。分かり合ったもの同士の空気が三人の間でだけ流れていて、オスニエルは自分が蚊帳の外に置かれているような気がしておもしろくない。

「フィオナ!」

「は、はい?」

 たまりかね、オスニエルが叫ぶと、驚いたように丸い目を向けた。ドキリと、オスニエルの心臓が跳ねる。

「明日の支度は整っているのか」

「ええ。襲われて汚れた衣装も、綺麗にしていただきましたし。……まあ、私の花嫁姿など、ご興味ないでしょうけど」

「……ぐっ」

 オスニエルはムッとしたまま、口ごもる。今の一瞬で彼女のドレス姿を想像してしまったなどとは、とてもじゃないが言えない。

「だが俺の隣に立つのだからな、恥ずかしい格好をしてもらっては困る」

「まあ、私はこの国の常識には疎いもので。頂いた支度金でできるだけのことはしております。もし、不備があるとすれば支度金が足りないだけのことですわ。おのれの恥なのですから、甘んじて受ければよろしいのでは?」

「貴様……」

 フィオナとオスニエルの会話を、エリオットと後ろに控えているローランドはハラハラしながら聞いていた。

「あ、あのっ。この国の調度は素晴らしいですね。名のある建築家・アンガス様もこの国の出身でいらっしゃいますよね」

 たまりかね、別の話題を出すのはエリオットだ。

「ほう。エリオット殿は建築には詳しいので?」

「ええ。美術品や骨とう品に興味があります。王子でなければ、研究者として学び続けたいと思っていたのですが」

 エリオットが会話を引き受けてくれたため、フィオナはオスニエルの睨むような視線から逃れることができた。

(いちいちつっかかってこないで欲しいわ)

 自分から寵は期待するなという割に、オスニエルは細かなことに口出ししてくる。

(まあそれも、結婚式が終わればおさまるでしょう。彼は私に興味がないのだもの。あとは捨て置かれるだけだもの。自由にするのはそこからでいいわ)

 その後は、特にオスニエルと会話することなく、食事の時間が終わった。