8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「すごいですよ、いい売れ行きです」

「落ち着いて、ポリー。なんの話? それにね、王宮の侍女たるもの、いかなる時も気品を忘れてはならないわ」

「あっ、そうですね。すみません。……あのですね。フィオナ様から預かった紐編みのアクセサリー、売れ行き好調なんです! ペットとお揃いというコンセプトがやっぱりいいようで!」

「そうなの? すごいわね」

「ええ。とりあえずこれが、今回の売り上げの、フィオナ様の取り分です。材料代は抜いてありますので、あまりたくさんではないんですけど」

 革袋で渡されたお金は、結構な重さがあった。

「私の?」

「ええ。お姫様にお給金というのも変ですけど、作品への対価ですのでどうぞお納めください!」

 手のひらに乗ったお金の重さに、フィオナはこそばゆさを覚えた。一国の姫であるフィオナは、お金で困ったことはほとんどない。欲しいものは、言えば王城に商人の方からやって来たし、支払いは税務担当のものが行う。フィオナには自分で稼いで自分で払うという感覚がなかった。

「このお金で買ったものは、私のものよね」

「もちろんです。欲しいものがございますか? フィオナ様には現在外出が許されていませんが、私が代わりに買ってくることならできます」

 自分だけのお金。そんなもの初めてだ。
 これまでの人生で、平民に身を落としたこともあるが、一緒に居た幼馴染はフィオナを姫として扱い、外での仕事はさせなかった。紐編みで麻袋は作っていたが、売ってくるのは幼馴染たちで、すぐに食料に変わっていった。

「私でも、働けるのね」

『今の立場なら働く必要ないだろうけどな』

「そんなことないわ。オスニエル様になにかを買ってもらうことなんてないだろうし。自分で使えるお金があるのはありがたい……」

 思わず普通に返事をしてしまったフィオナは、ポリーが目を丸くして凝視しているのに気づいて口を止めた。

「どうなさいましたか、フィオナ様。おひとりで……」

「ごめんなさい。独り言よ」

 ポリーにはドルフの声は聞こえないのだ。うっかりしていた。