祖父の代に強固だった結界は、父の代に入ると弱まり、温暖な気候を維持できる範囲は一気に減った。実りがなければ人は荒れる。国境付近には窃盗団や山賊が現れるようになり、病魔のようにいつの間にか範囲を広げ、国全体を脅かしていく。

 その国力の弱まりを、見逃さなかったのがオズボーン王国だ。
 戦争や結婚により領土を増やし、今や大国となったオズボーン王国の次の狙いはブライト王国だ。一時は攻め込まれたが、鷹の聖獣の力を借り、突風で彼らの陣を荒し、補給を断つことで前線を孤立させ、停戦まで持ち込んだ。

 今後も国を脅かすことのないよう和平条約の締結は必須だ。ブライト王の提案に、オズボーン国の王は、こう付け加えた。

『貴殿の娘を、我が息子の側妃に迎えよう。婚姻による平和同盟だ。どうだ?』

 ブライト国王は、次代のことも考えれば、この提案を飲むしかなかった。なぜならば、今の王家に与えられた加護は弱い。自身の鷹の聖獣の加護、世継ぎであるエリオットには、フクロウの加護。ともに、力に関しては弱い聖獣だ。そして、長子でもある娘のフィオナには、何の聖獣の加護もないのだから。
 そんな理由でフィオナの政略結婚は決まったのである。たとえ側妃として迎えられることに不満があろうとも、断るという選択肢はない。フィオナも、今さらそれに関してごねるつもりはなかった。