聖なる山・ルングレンのふもとにあるブライト王国は、聖獣の加護により、長年、他国の侵攻を阻んできた。
 その守りの要となるのが、国王と聖獣との関係である。
 ブライト王国の初代国王は、ルングレン山の狼の聖獣と友達だった。聖獣は彼を助けるために自ら力を使い、寒冷な高地でありながら作物が実るよう結界をはった。おかげでブライト王国内は実り多い土地として繫栄し、小国ながら豊かな国となったのだ。

 聖獣は、初代国王の子供たちも愛した。長生きの聖獣はその後三代にわたって王家を守っていく。
 しかし、聖獣にも命尽きるときがやってくる。
 彼は死を前にルングレン山の聖獣たちに告げた。

『どうか、これからもブライト王家を守ってほしい』

 聖獣たちは頷き、気に入った王族に加護を与えることにした。すると何人もの王族が加護を得るという状況に陥る。王家は、一番力の強い聖獣の加護を得たものを、次代の国王にすると決め、聖獣たちもそれで納得し、王国の平和を守っていく。

 代を継ぐごとにその一連の流れは形式化し、今では、王家の子供が十三歳になるとルングレン山にある祠に入り、加護をいただくという儀式を行っている。祠に入った子供を、聖獣たちが検分し、その子供を気に入った聖獣が加護を与えるのだ。

 加護を得るといっても、王族本人が力を持つわけではなく、基本は、聖獣と意思疎通ができるようになるだけだ。その後は聖獣のさじ加減に任される。王族を気に入り、力を授ける場合もあるし、ただ王族の願いを聞くだけの聖獣もいる。

 最低限、ブライト王国を守る結界だけは、皆守り続けてはくれるが、聖獣との関係が悪化すれば、この国はあっという間に弱体化してしまう。

 そして現在、それに近い危機が、ブライト王国を襲っていた。
 十年前、狼の聖獣の加護を得ていたフィオナの祖父が亡くなった。次代を継ぐ父を選んだのは鷹の聖獣だった。
 聖獣にも個性があり、単体ごとに得手不得手がある。鷹の聖獣は遠くを見通すことができ、風の魔法を操り、素早く攻撃を仕掛けることもできるが、守りの力はそう強くはない。