移動には五分もかからなかった。あっという間に国境近くにまで移動すると、ドルフはフィオナを背から下ろす。
二国の国境を示す石碑の傍に、騎士団と思われる一団がいる。あれがきっと、オズボーン王国側で用意した護衛だろう。しかし、ここも時が止まっているようで、誰ひとりとして動いていない。
「ドルフ?」
『疲れた。そろそろ子犬の姿に戻る。その姿になったら時間の制御はできなくなるからな。動きだすぞ』
ここから先の交渉はひとりでやれということか。不安に思ってドルフを見つめるも、『どのみち、俺が奴らと会話できるわけがないだろう』と言われてしまう。
「元の姿に戻ったら、もう話せないの?」
『加護を与えたから、少しなら。今みたいに流ちょうに話すことは難しくなるが』
「そう」
でも、ドルフと話せるなら少し気が楽だ。
自分を殺そうとしている王太子がいる国へ、側妃として乗り込むのだ。心を許せる相手がひとりでもいるなら助かる。
フィオナはドルフの銀色の毛並みを撫で、その頬にキスをする。
「助けてくれてありがとう、ドルフ」
『……ふん。ペットを守るのは飼い主の仕事だ』
ツンとそっぽを向いてそう言ったあと、ドルフは灰色の犬の姿に戻ってしまう。と同時に、周囲に音が戻った。止まっていたすべてが、なにもなかったかのように動き出す。
フィオナはドルフを抱き上げる。
こうしていると、この子が本当は聖獣、しかも最も力の強い銀の狼だなんてことが、嘘のように思えてくる。思いもよらない事実に、驚きしかない。
(まあ一番の驚きは、私の方がペット扱いされていたってことだけどね)
これで、十三歳の儀式の際、フィオナにどの聖獣も加護を与えてくれなかった理由も分かった。聖獣側にすれば、加護まで与えていないとはいえ、ドルフが側にいるというならば、フィオナは予約済みの王族ということになる。まして狼の聖獣の力は強い。自分より上位の聖獣を押しのけてまで加護を与えようとは思わないだろう。
(ドルフのせいだったんじゃないの、全く)
最初から加護をくれていればこんなことにならなかったのに……とは思うけれど、終わってしまったことは仕方ない。
二国の国境を示す石碑の傍に、騎士団と思われる一団がいる。あれがきっと、オズボーン王国側で用意した護衛だろう。しかし、ここも時が止まっているようで、誰ひとりとして動いていない。
「ドルフ?」
『疲れた。そろそろ子犬の姿に戻る。その姿になったら時間の制御はできなくなるからな。動きだすぞ』
ここから先の交渉はひとりでやれということか。不安に思ってドルフを見つめるも、『どのみち、俺が奴らと会話できるわけがないだろう』と言われてしまう。
「元の姿に戻ったら、もう話せないの?」
『加護を与えたから、少しなら。今みたいに流ちょうに話すことは難しくなるが』
「そう」
でも、ドルフと話せるなら少し気が楽だ。
自分を殺そうとしている王太子がいる国へ、側妃として乗り込むのだ。心を許せる相手がひとりでもいるなら助かる。
フィオナはドルフの銀色の毛並みを撫で、その頬にキスをする。
「助けてくれてありがとう、ドルフ」
『……ふん。ペットを守るのは飼い主の仕事だ』
ツンとそっぽを向いてそう言ったあと、ドルフは灰色の犬の姿に戻ってしまう。と同時に、周囲に音が戻った。止まっていたすべてが、なにもなかったかのように動き出す。
フィオナはドルフを抱き上げる。
こうしていると、この子が本当は聖獣、しかも最も力の強い銀の狼だなんてことが、嘘のように思えてくる。思いもよらない事実に、驚きしかない。
(まあ一番の驚きは、私の方がペット扱いされていたってことだけどね)
これで、十三歳の儀式の際、フィオナにどの聖獣も加護を与えてくれなかった理由も分かった。聖獣側にすれば、加護まで与えていないとはいえ、ドルフが側にいるというならば、フィオナは予約済みの王族ということになる。まして狼の聖獣の力は強い。自分より上位の聖獣を押しのけてまで加護を与えようとは思わないだろう。
(ドルフのせいだったんじゃないの、全く)
最初から加護をくれていればこんなことにならなかったのに……とは思うけれど、終わってしまったことは仕方ない。



