フィオナの銀の髪が風に踊る。

「すごい……! 速い。馬車なんか目じゃないわ」

『これでも、お前の呼吸が妨げられないよう手加減している。俺を甘くみるなよ。本気を出せばもっと速い』

 狼の聖獣は、ルングレン山の聖獣たちの中でも、特に強い力を持つと言われている。なるほど、ドルフはかなりの力を隠し持っているのだろう。

「ね、ドルフ。トラヴィスたちがどうなったかって分かる?」

『そっちは興味ない。俺が連れていくのは国境だ』

「そんなこと言わないでよ」

『駄目だ。ペットは飼い主の言うことを聞くものだぞ』

 そのセリフで、ドルフがフィオナの指示を聞かない理由も理解できた。自分の方が主人だと思っているのなら当然だ。

「……ちなみに。飼い主様は私のこと守ってくれるのかしら」

『気が向けばな。まあ、これの礼の分くらいはな』

 ドルフが胸を反らして見せたのは、フィオナがプレゼントした紐の首輪だ。革の首輪の方は大きくなるのと同時に外れてしまったようだが、紐の方はぴちぴちになりつつもついたままだった。

「気に入ってくれたの」

『ふん。せっかくペットがくれたものだから大事にしてやってるだけだ』

 偉そうな態度だが、そういうところはかわいらしい。フィオナは自然に笑ってしまう。

(トラヴィスたちのことは、後で何とかするしかないわね)

 これ以上、ドルフに願っても聞き入れてはもらえなさそうなので、いったん諦めることにした。