8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「絶対にオズボーン王国の思い通りになんてさせないわ。ドルフ! このまま国境に向かいましょう。死んだと思った姫が単身でやってきたら、どんな顔をするかしら。見ものだわ!」

 怒りが収まらないフィオナを、ドルフは紫の瞳を少し細めて眺めた。

『ほう。フィオナにしてはずいぶん勇ましいことを言うな』

「だって、あんまりでしょう? もううんざりよ。人の思惑に振り回せるのはたくさん」

『悪くない案だ。いいだろう。だが、お前は力が弱すぎるからな。……こっちを向け』

 そう言うと、ドルフはフィオナの額に口づけた。ぺろりと舐められた瞬間、フィオナは全身にビリリと雷が走ったような気がした。

「今の……何?」

『ほんの少しだけ加護を与えた。お前の魔力属性に一番適合している氷の力だ。それで自分の身はちゃんと守れ』

「氷……?」

 フィオナは自分の指先を見た。力を込めると、ビリビリした感覚が生まれる。

『あそこを狙ってみろ』

 ドルフの視線の先には、大樹がある。フィオナはそこに指先を向け、力を込めた。
 すると、突然指先から氷の欠片が生まれ、勢いよく大樹めがけて飛び出していった。氷片は幹に突き刺さり、やがてゆっくりと溶けていく。

「すごい……」

『氷の粒の大きさは、お前のイメージの仕方で変わる。これで大抵の人間はお前を傷つけられないだろう』

 フィオナは大きな氷の塊や、砂のような細かさの雪を出してみた。ドルフの言う通り、フィオナの思い通りの氷が、手のひらから生まれる。

「ドルフ、本当に聖獣なのね」

『ああ。今まで気づかないなんて、本当にお前は鈍感だな』

 軽く馬鹿にされたので頬を膨らませると、ドルフはくつくつと笑、宥めるように言った。

『さあ、近くまでは俺が乗せてやる』

 ドルフはフィオナに背中を向けた。乗れ、ということなのだろう。ドレスを軽く持ち上げ、フィオナは彼の背をまたぎ、しがみつく。次の瞬間、凄い速さでドルフは走り出した。