『とにかく、お前が俺のペットであることは間違いない。俺のものを勝手に他国に売りつけるようなお前の国もどうかと思っていたが、お前を殺そうとするあたり、これから行く国も大したことはないな』
「え?」
『気づいてないのか。あの襲撃者たちはオズボーン王国側のものだ』
「嘘っ」
襲撃者は山賊のような姿をしていた。それにオズボーン王国がそんな襲撃をする理由もわからない。フィオナは王太子に嫁ぐのだ。ここでなにかが起きて、輿入れできなくなればあちらだって困るはずだ。
それをドルフに告げると、彼は小さく首を振った。
『オズボーンにお前を引き渡した後ならば問題になるが、ブライト王国内で事が起きれば話は別だ。こちら側の警備の不備なり、お前が逃げたなり、難癖はいくらでもつけられる。それこそ戦争を起こすきっかけになるだろう。王太子とやらは、結婚よりも戦争で国を征服したいんじゃないか?』
「なによ、それ、ひどすぎるわ」
一瞬、頭に血が上ったものの、フィオナは冷静にその可能性を考えてみた。
オズボーン王国の目的は、ブライト王国の実りある土地だ。北部の極寒地にありながら、聖獣の加護によって耕作地や居住地域は温暖な気候が保たれているため、農作物の出来がいいのだ。それは聖獣の加護のおかげなので、属国にして王族を排斥した途端に、そこは作物の育たぬ極寒地になるだけなのだが、聖獣の存在を信じないオズボーン王国は、きっとわかっていないのだろう。
彼らが、ただ土地が欲しいだけで、こんなことをしでかしたのだとしたら。
「……冗談じゃないわ」
フィオナは、ふつふつと怒りが湧いてきた。
一体なぜ、ここまで理不尽なことをされなければならないのか。
和平交渉とはいえ、輿入れに関してはオズボーン王国からの申し入れだ。フィオナだって好きで嫁ごうとしているわけじゃない。国のためだと思って、仕方なく了承したのだ。それなのに、戦争のきっかけにするために殺されるなんて冗談じゃない。



