『お前はまだ分かっていないんだな。俺だ。ドルフだ』
狼の言動に、フィオナは目をぱちくりとさせる。
「ドルフ? そう言えばドルフはどこに行ったの?」
『だから、俺がドルフだ』
「……ドルフは犬よ?」
『お前がそう思い込んだだけだろう。小さいままの方が、運んでもらえるしかわいがられるし、楽だからそうしているだけだ』
目の前の狼は、キラキラ光る銀色の毛並みを持っている。瞳が紫なのはドルフと一緒だが、彼の毛の色は灰色だったはずだ。
それを指摘すると、『変化しているときに目立つ毛の色にするわけがないだろう』と鼻で笑われた。
だとすれば、これがドルフの真の姿なのか。あまりに神々しく、見ていてひれ伏したくなる。
「じ、じゃあドルフは聖獣だったの? 私には狼の聖獣の加護があったってこと?」
狼の聖獣は、ルングレン山で一番強い。無条件で彼の加護を持つ者が王になれるはずだ。期待してそう尋ねると、ドルフは首を振った。
『いや? 加護までは与えていない。俺はお前を拾っただけだ』
「拾った? え? 私が拾ったんでしょう? 山にいたあなたを」
『違うな。勝手に山に入り込んできた子供を、俺が拾ってやったんだ。便宜上、城で暮らしていただけで、飼っていたのは俺の方だ』
「はぁ?」
なんということだろう。まさかの自分のペットに、飼われていると思われていたとは。
「や、だって、私の方が餌をあげたりしてたじゃない」
『餌も散歩もフィオナじゃなく侍女がしてたんだろう』
「うっ、でも、あの子たちは私に仕えているんであって」
『違うな。お前の父親もしくは王家そのものに仕えているんだ』
何を言っても言い返される。フィオナが言葉を無くして黙ると、ドルフは鼻で笑った。



