(戻ってきたのは、もう八度目ね)

 転生というのとは違うのだろうが、フィオナはこれまでに七回、二十歳まで生き、そして死んでいった。そして必ず、十七歳の今、政略結婚を言い渡されるこのタイミングへと戻ってきてしまうのだ。

 八度目ともなれば、慣れたものだ。
 フィオナが表情を変えずに黙っていると、父は言葉を詰まらせながらも続けた。

「この決定に異を唱えることは……できない。お前は聖獣の加護も得られなかったのだ。せめてその身をもって、この国の役に立ちなさい」

「分かりました」

 粛々と頷いたフィオナを見て、父は痛ましそうに顔をゆがめた。
 愛情のない父ではない。不本意ではあるが、国のためを思えば仕方ない決断だったのだろう。

「輿入れ先には、侍女と護衛騎士をひとりずつ連れていくことが許可されている。こちらでも選出するが、希望があれば聞こう。明日までに考えておきなさい」

「かしこまりました」

「出立は半年後だ。婚礼道具はすぐに手配しよう。お前は身を清めてその日を待て」

「はい」

 フィオナが頭を下げ、親子の会話が終了だ。
 謁見の間にいた重臣たちは、この決定にざわめいた。
 それもそのはず。隣国オズボーンは、精霊や聖獣の存在を信じておらず、武力だけを強化し、領土を増やした野蛮な国だ。ブライト王国の人間は、誰もが自分たちを守る聖獣のことを信じ、あがめているので、聖獣を軽んじるオズボーンは最も忌み嫌うべき国だった。
 そこに、自国の姫が嫁ぐと思えば、心穏やかにはいられないのだろう。

 フィオナは謁見の間から下がる。国の重臣たちの、まとわりつくような視線から解放され、部屋を出た途端、自然とため息が出た。

(また始まってしまったのね)

 フィオナは、心を落ち着けるように何度か深呼吸をし、決意を固めて顔を上げる。
 八度目の人生、さあ、今度はどう生きようか。