フィオナは毅然と首を振った。この婚姻は成功させなければならないのだ。
「私があなたを選ぶことはないわ。トラヴィス」
ピクリと彼の手が動く。フィオナの肩を掴もうとして、空を握りしめた。
傷ついたのかもしれないと思うと、フィオナは彼の顔が見れなくなった。
フィオナはドルフを撫でながら、自分にも彼にも伝えるようにゆっくりと言った。
「私は、姫としての務めを果たしたいの。自分の欲ではなく、国のために。私に愛や恋は必要ない。だから私は、連れていくのをこの子だけにしたのよ」
しばしの沈黙。吹き付ける野外の風が、それまで明確な形を見せていなかったふたりの間にある意見の違いをあらわにしていくような気がした。
「……わかった」
トラヴィスは不満そうだったが、頷いた。
フィオナは安心して彼を見つめる。兄のような彼との関係が変わらないことを祈って、手を差し出した。握手をして、それでこの話は終わりだ。
「ヒヒーン!」
突然、馬が大きくいなないた。他の護衛も驚いてあたりを見回す。ドッドッという複数の馬の足音が響く数十人の集団がこちらめがけて走ってくるのが見える。
彼らが振り上げている剣が太陽の日を浴びて光が反射している。
「敵襲……! なんだ、賊か? 姫様、お逃げください」
「フィオナ、馬車に戻れ」
護衛のひとりが叫び、トラヴィスによって馬車に押し込まれる。
「キャン」
「こっちにおいで、ドルフ」
ドルフは地面に落とされたが、乗る直前にフィオナが抱き上げた。
扉が閉められると、フィオナからは状況がわからなくなった。窓はあるが、全体を見渡せるわけではない。
「姫様、逃げますよ」
御者が叫び、馬車は荒々しく動きだす。
「お前等の相手はこっちだ!」
叫ぶのはトラヴィスだ。けれど、その声もだんだん遠ざかる。
「私があなたを選ぶことはないわ。トラヴィス」
ピクリと彼の手が動く。フィオナの肩を掴もうとして、空を握りしめた。
傷ついたのかもしれないと思うと、フィオナは彼の顔が見れなくなった。
フィオナはドルフを撫でながら、自分にも彼にも伝えるようにゆっくりと言った。
「私は、姫としての務めを果たしたいの。自分の欲ではなく、国のために。私に愛や恋は必要ない。だから私は、連れていくのをこの子だけにしたのよ」
しばしの沈黙。吹き付ける野外の風が、それまで明確な形を見せていなかったふたりの間にある意見の違いをあらわにしていくような気がした。
「……わかった」
トラヴィスは不満そうだったが、頷いた。
フィオナは安心して彼を見つめる。兄のような彼との関係が変わらないことを祈って、手を差し出した。握手をして、それでこの話は終わりだ。
「ヒヒーン!」
突然、馬が大きくいなないた。他の護衛も驚いてあたりを見回す。ドッドッという複数の馬の足音が響く数十人の集団がこちらめがけて走ってくるのが見える。
彼らが振り上げている剣が太陽の日を浴びて光が反射している。
「敵襲……! なんだ、賊か? 姫様、お逃げください」
「フィオナ、馬車に戻れ」
護衛のひとりが叫び、トラヴィスによって馬車に押し込まれる。
「キャン」
「こっちにおいで、ドルフ」
ドルフは地面に落とされたが、乗る直前にフィオナが抱き上げた。
扉が閉められると、フィオナからは状況がわからなくなった。窓はあるが、全体を見渡せるわけではない。
「姫様、逃げますよ」
御者が叫び、馬車は荒々しく動きだす。
「お前等の相手はこっちだ!」
叫ぶのはトラヴィスだ。けれど、その声もだんだん遠ざかる。



