8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「仕方ない、戻るか。フィオナ、今晩また来る」
「はい」
「じゃあ、執務に戻る」

 フィオナは子犬状態の俺を抱き上げ、オスニエルを見送るために立ち上がった。

「ドルフ」

 オスニエルが呼ぶので、俺は片目を開けて、見上げる。奴は拳を俺の鼻先にこつんと当て、「俺がいない間、フィオナを頼むぞ」と言った。

 あたり前だろう。フィオナは俺のペットだ。守るのは当然のことだ。
 奴の後ろ姿を見つめながら、フィオナは少し寂しそうな顔をした。この国に来てすぐは、あんなにオスニエルに腹を立てていたのにと思うと、女心というやつは現金だなと思う。
 腹は立つが、彼女のうれしそうな顔を見ていれば、まあ仕方ないかと思える。子供が巣立つようなもの悲しさを、感じないとは言えないのだが……。
 それに、……オスニエルは、たとえ子犬姿のときでも、俺を撫でることはない。最初はただの犬嫌いかと思っていたがそんなことはない。あいつは、俺を愛玩動物だとは思っていないのだ。
 だからさっきのように、フィオナと離れるときには必ず俺に託してく行く。

(ずるい男だな。憎めなくさせるところが最悪だ)

 種族的な部分を取っ払い、彼が自分を認めているのがわかるから、俺もまあ、オスニエルのことは嫌いではない。
 せめて夜くらいは、ふたりきりの時間を作ってやろう。


【Fin】