フィオナにその一報が届けられたのは、朝食を終えた後だ。
 今日も孤児院に一緒に訪問する予定になっていたのだが、ロジャーが慌ててやってきて、事情を説明してくれた。

「発熱?」

「ええ。ですから今日はフィオナ様だけで行ってらしてください」

「大丈夫なのですか? オスニエル様は」

「知恵熱……いえ、夜風にあたりすぎたことが原因のようです。体は強いお方ですから、一日しっかリ休めば治りますとも。ご心配には及びません」

 ロジャーはにっこりと微笑み、気にしないようにとフィオナを笑顔で送り出す。
 しかし、フィオナの心はなかなか晴れなかった。馬車に乗っている間も、孤児院で子供たちと触れ合っていても、どこか落ち着かない。

「今日は王子様来ないの? フィオナ様」

「ええ。……ねぇ。孤児院で誰かが病気になったときは、どうしているの?」

 フィオナは、紐編みの一番得意な少女に尋ねた。この中で年長にあたる彼女は、子供たちの面倒を多く見ているだろうと思ったのだ。
 彼女は一瞬きょとんとし、「そうですね」と話し出す。

「ここではあまり薬が手に入らないので、他の子供たちにうつらないように個室に移して、私やビートのような年長者が看病をします。頭のタオルを定期的に替えに行くのですけど、……寂しいのでしょうね、『行かないで』とよく服の裾を掴まれます」

「そうよね。病気のときは心細いもの」

「ずっとついていてあげたいですけど。私たちにはほかにも仕事がありますから、結局時々覗きに行くだけになります」

「そうなのね。お医者様は、往診はしてくれないの」

「往診はお金がかかります。動けるようなら町医者に行きますが、たいていは寝ていれば治るので……」

 少女は気まずそうに言う。たしかに風邪は自然にも治るが、もし違う病気だった場合に、発見が遅れるのではないだろうか。それに、病気の期間が長ければ長いほど、他に人間にうつす可能性も上がっていく。

「誰でも簡単にお医者様にかかれるようにならないとダメね」

 フィオナは新たな課題を頭に叩き込み、このあたりの町医者の情報を聞き、この話を終えた。