8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

「落ち着いて、トラヴィス。たしかに輿入れのときはそうだったけれど、私はこうして生きているわ。それに、今は側妃として大切にはされているし」

「お前が輿入れしてもう五ヵ月経つ。それなのに、今だに懐妊の話が出ない。俺にとってはありがたい話だが、結局はお前が大事にされていないってことじゃないのか」

 フィオナは瞬きをする。懐妊などするはずがない。今だ、そういったことは行われていないのだから。

「だって私との間に子を儲ける必要はないもの。オスニエル様はいずれ正妃を迎えて、世継ぎはそちらとの間に設けるのよ?」

「お前はそれでいいのかよ!」

 トラヴィスの瞳は真剣だ。フィオナは一瞬たじろぐ。
 恋がしたい。誰かに一番に愛されたいという昔からの願いは、封印したとはいえ心の奥底に眠っている。
 だが、決めたのだ。恋に生きるのはもうやめる。幸せになるために生きるのだと。

「……いいの。私はここで、側妃として生きるの。夫から愛されなくても、国民を愛し愛されれば、幸せになれる。それが王族よ」

「フィオナ……」

 トラヴィスは何度も何度も、フィオナを思って手を伸ばしてくれる。けれど、フィオナは決然とそれを断った。

「私はここにいる。国のために。だからトラヴィスも自分のために生きて。早くこんなところは辞めて、国に戻って?」

「……俺は、諦めないからな」

 そう言い残し、彼は姿を消した。ドルフが近寄ってきて「くう」と鳴く。

『あの男、まだお前のことをあきらめてないんだな』

「トラヴィスは兄みたいなものだもの」

『思い込みの激しい奴だから、気を付けたほうがいいぞ』

「そうね」

 けれど、ただの一兵卒のトラヴィスにできることなどないだろう。
 フィオナと話ができるようになるだけでも半年もかかっているのだ。
 こんなところで無駄に時間をつぶすよりも、自国に帰って、国を守ってほしい。
 フィオナは一抹の不安を感じながらも、自室へと戻った。