殺人鬼を攻撃したとき、誰もあんな悲鳴は上げなかった。


もっと獣じみた雄たけびだった。


あたしはスッと血の気が引いていくのを感じた。


「香、しっかりしてよ!」


近づいていくと、香と視線がぶつかった。


目の色は正常だ。


感染はしてない。


しかし、目はうつろであたしを見ていても、なにも見ていないように感じられた。


「殺せばいいんじゃん」


ふいに香がそう呟いた。


あたしは足を止める。


「え?」


「殺せばいいんじゃん!」


香は再び叫び、そして笑った。


目の前にいる香は本当にあたしの知っている香だろうか?


いつも雪のことを気にかけて手助けをしている香本人だろうか?


うろたえてしまいそうになるが、必死に香を見返した。


「ダメだよ、そんなことしちゃあ」


「どうして? だって、相手はあたしたちを攻撃してくるんだよ?」


「放送を聞いてなかったの? 殺人鬼に感染された生徒は、アザを切り取れば元に戻るの。殺す必要なんてない!」


思わず声が荒くなった。