褒め上手な先輩の「可愛い」が止まりません


「せっかく可愛い顔してるんだから、隠してたらもったいないよ? 少し髪の毛分けてみたら?」



緊張でガッチガチに固まっている私に、西尾先輩はさらに追い打ちをかけてきた。

名前、服ときて、今度は顔⁉

しっかりして実玖! 先輩は優しくて女の人に慣れてるだけ!

先輩にとって褒め言葉は挨拶のようなものなんだから! 本気にしちゃダメだ!



「いえ! 本当に全然可愛くないですから! 今までそんなこと、身内以外誰からも言われたことないですし……!」



両親や祖父母から言われたことはあったけれど、それはもう10年以上も前の話。高校生になった今は全く言われない。

しいていうなら、帰省した時に祖父母から『大きくなったね~』と言われるくらいだ。



「随分楽しそうですねぇ」



突然声が聞こえて振り向くと、兄がドアの隙間からじーっと顔を覗かせていた。



「ビックリした……脅かすなよ」

「ごめんごめん。また東馬がお世辞を言って実玖を困らせてたからつい」



……そうだよね。

猫カフェ帰りの時も、『褒め方が軽々しい』って言われてたし。

可愛いなんて、お世辞に決まってる。