(えっ、どうして?

私の足が勝手に……)


私はあり得ない今の状況を冷静に考えることができなかった。


何で私はパックリと広がっている空が見えるあの窓の方へと歩いているのか?


パニックに陥って何をして良いかもわからない私の頭の中に溢れ出すほどの不安が浮かんできた。


そして窓までたどり着いた私が前のめりになって窓枠にもたれかかり、そこから外を目にしたとき、自分がいるこの病室が病院の高層階にあることがようやくわかった。


私は自分の意思に逆らってその窓から飛び出そうとしている自分を止められずに、泣きながら助けを求めていた。


「お願い、止めて!

私はまだ死にたくない!」


窓から飛び下りようとしている私の体を母が必死に引っ張っていた。


もしかして母は私が自殺ようとしていると思っているのかもしれなかった。


でも、本当は違う。


私は一ミリも死にたいと思っていない。


私の背後で母と看護師が悲鳴のような声を上げていた。


そしてその声に入り交じった忍の笑い声が私にはハッキリと聞こえていた。


「フフフッ、フフフッ……。

ハハハハハハッ……」


教室の中で忍が笑った声を私は一度も聞いたことがない。


私が知っている忍はいじめられてもバカにされても黙りこんで、うつむいてる負け犬なのだ。


そんな忍が私の不幸を笑っていた。


陰キャ眼鏡の忍なんて、クラスの底辺にいた存在なのに……。


私が泣きながらそんなことを思っていたとき、無情にも私の体は母の手を振り切って、窓の外へと飛び出していた。