「忍は小さい頃から物語が好きだったの。

私が絵本を忍に読み聞かせると、忍は夢中になって私の話を聞いていた……。

私たちの家は貧乏で、私と章人はお金のことでいつもケンカばかりしていたの。

でもそんなとき、忍は私たちの声に耳を塞ぐように部屋の隅でずっと絵本を読んでいた。

現実は残酷でも絵本には夢があるって、忍は無意識のうちに気づいていたのね。

忍が特に好きだった物語は『シンデレラ』なの。

『ねぇ、お母さん。いつか私にもシンデレラみたいに魔法がかかる?』って、忍は私に聞いていた。

だから私は『いつの日か忍にも魔法がかかるよ』って言ったの。

『素敵な魔法が忍にかかって、忍は誰よりも幸せになれるんだよ』って……。

八年ぶりに会った忍は変わらずに物語が好きだった。

自分で物語を書いて、その物語を読んでくれた人がコメントをくれたって……。

その場所は自分の一番大切な場所だって。

そこには私の居場所がちゃんとあるって」


「明恵さん、その場所って……」


「小説投稿サイトよ。

サイトの名前までは知らないけど、忍が思っていたことは、きっとそこに書いてある。

忍はそれに気づいて欲しいって思っている」


私は明恵の話を聞いて、すべての謎が解けたような気がしていた。


私たちが必死になって探していた忍の遺書は、ネットの中に存在していたのだ。


学校にも家にも居場所がなかった忍は、ネットの中に自分の居場所を作っていた。


私たちはそのことに今まで少しも気づけなかった。